スーサンの清掃記07<省のはなし>

[省]:金文の字形は生の下に目をかく形、のち生が小の形となる。小は本来は眉に飾りを加えた形ではないかと思われる。呪力のある目で見回ることを省という。自分の行動をかえりみて、取り去ることから「はぶく、へらす」の意味となる。

 私が働いている建物ではクリーンエネルギーの活用を積極的に行っている。屋上には[太陽光発電装置]や[小型風力発電機]が2基、[太陽光集熱器]が2基、設置されている。まだまだ小規模だが省エネルギーに取り組んでいる。

 [太陽光発電装置]太陽光を特殊な結晶のパネルに集めて発電する装置。大型の建築物以外に一般家庭にも普及している。パネルの面積が大きいほど、たくさんの電力を発生させることができる。近年の技術の進歩により、パネル一枚あたりの発電量が上がっている。
この装置で発電した電気は、ビオトープのポンプに使用されている。

 [小型風力発電機]太陽光発電とともにクリーンエネルギーとしての期待が大きく、近年設置されることが多くなっている。小型の発電機は建物の屋上に設置できて、送電コストの低減につながる。離島など、燃料の確保や送電コストの高い地域の電源として活用できる。羽が大きくなればなるほど発電できる電力も大きくなる。ただし、障害物のない場所に設置する必要がある。
この装置で発電した電気は、屋上のストロボライトの電源などに使用されている。

 [太陽光集熱器]太陽の光を熱エネルギーに替えて、お風呂、台所の給湯や暖房などに利用されるシステム。真空管ヒートパイプ方式で太陽の光を真空二重構造の集熱器で受け、熱を蓄える。その熱で蓄熱槽に蓄えられている水を温め、約60度の温水を供給する。
この温水はシャワー室で利用されている。

 その他、トイレの水は浄水された雨水が活用されている。しかし、完全に濾過されていないので、便器の水際に汚れが付着してしまう。清掃員にとっては手間が増えてしまう欠点がある。今の技術ならば完全に濾過することも可能だろう。

 代替エネルギーとしての原発は、あまりにも危険が大きすぎる。50年後の安全なエネルギーを目指して研究を続けるべきだ。発電効率を上げた安価なこれらのクリーンエネルギーが各家庭に普及すれば、通信線だけを地中に埋設して電柱をなくすことができる。なにより、石油を奪い合うための戦争をすることもない。

スーサンの清掃記06<災のはなし>

 [災]:巛と火を組み合わせた形。巛は水流がふさがれてあふれ流れること。水害、洪水のわざわいをいう。それに火を加え、のちに水災・火災だけではなく、すべての「わざわい」のことをいう。

 日々、清掃していると、さまざまなトラブルに遭遇する。
早朝の3時間ほどで清掃作業を終えるためには、かなりのスピードで動かなければならない。そのため、手首、足首、指、腰などにかなりの負担がかかってくる。私の場合、右手の薬指が曲がったまま開かなくなった。バネ指の症状が出てしまった。作業の後で指のストレッチをしたりしたが、けっきょく、治るまでには約1年ほどの時間がかかってしまった。

 作業に従事しているスタッフのほとんどは高齢者だ。それぞれ腰痛や肩痛を持ちながら仕事にあたっている。私の場合は、日々の仕事のあと、屈伸、跳躍、ランニングなどの運動、ストレッチなどをして、体力を保つ工夫をしている。
 その他に、偶然のアクシデントで、机や椅子にぶつけたりして、足首や肩を痛めたりすることがある。反射神経を鍛えたりして、細心の注意をして作業をしている。

 私が担当している施設には、児童館、福祉事務所、福祉協議会、成年後見センターなどの施設がある。足の不自由な人、見るからに職業がわかってしまうような親子連れ、異常に声が大きい女性など、さまざまな人の出入りがある。子供のオシッコはまだいいが、失禁する人、トイレを汚す人、ゴミを捨てる人、などなど。清掃が仕事なのだから当然だが、いろいろなトラブルがある。

 台風シーズンは水漏れや水あふれ、秋のぬれた落ち葉のそうじ、冬は突然訪れるたいへんな雪かき作業など、一年中、季節によっていろんなトラブルがやってくる。

スーサンの清掃記05<童のはなし>

 [童]:下部の字形は東(とう)、のちに省略形が里になる。上部の立の部分は辛と目を組み合わせた形で、辛(大きな針)で刑罰として目の上に入れ墨をすることをいう。童とは「奴隷、しもべ」のこと。まげを結うことが許されなかったので、同じようにまげを結わない「わらべ、こども」を童という。

 私が清掃を担当しているじどう館には体育室、図工室、幼児室、音楽室、図書室、集会室、などが設備されていて、乳幼児から中高生までに利用される施設だ。
子育て中の親御さんにとっては新しいおもちゃや絵本の発見をしたり、楽しい情報交換の場になっている。育児の悩みを解決するセミナーなども開催される。
音楽室の壁は、防音設備がなされていて、ギター、ベース、ドラム、などの音楽機材があり、中高生に利用されている。エントランスホールでは、多くの子供はデジタルゲーム機をしたり、子供用ビリアード、各種ボードゲームなどで遊んでいる。

 体育室では、バレーボール、バスケットボール、卓球、一輪車、などをすることができる。その他、幼児用トランポリン、キャンディーボール、フラフープ、ディアボロ、ローローボール、バランスボール、プラスチック製や木製のすべり台や乗り物などの遊具などが用意されている。体育室は1日100円ほどで利用でき、若い夫婦とかわいい子供たちの利用が多くなっている。
毎日の清掃では、広いフローリングに危険なゴミを残さないように細心の注意をしている。

 じどう館では「学童クラブ」が運営されている。原則として共稼ぎの家庭の児童を対象にしてる。小学校3〜4年生までの児童を放課後から親が不在の6時頃まで、預けることができる制度だ。家庭の経済状況に制限はあるが、おやつ付きで1月3000円ほどの費用で利用できる。
夏休みや春休みには、朝早くから来館して、毛糸やリボンや紙などを使ったアクセサリーの工作、簡単な料理やデザート作りなどのイベントなどで時間を過ごしている。

 私が子供の頃、じどう館は子供用の映画や演劇などを上演する大規模なホールのようなものだと思っていた。今は、もっと身近な存在になって、のびのびとした放課後の遊びの場所になっているようだ。

スーサンの清掃記04<華のはなし>

 [華]:花びらが美しく咲き乱れている形。咲き乱れている様子から「はな、はなやか」の意味がある。花の字は華の後に作られた文字で華と同じ意味である。拝礼の「拝」の旁は腰を曲げて華を抜き取る形。「おがむ」の意味になる。

 私が清掃しているビルの屋上は庭園になっている。春には、パンジービオラアネモネ、チューリップ、スノードロップスイセンなど、色とりどりの花が咲く。夏は、ヒガンバナ、シラン、ミヤコワスレサルビアニチニチソウ、キジムシロなど。秋は、コスモス、オミナエシ、キキョウ、ハギ、ワレモコウ、ヨモギフッキソウ、クズ、ツワブキ、ススキ、オギなど、様々な草花が咲いている。ところが、台風シーズンになると、丈が2メートル以上にも成長するコスモス、オミナエシ、ワレモコウなどは風に押されて根元から倒れてしまう。屋上庭園の盛り土には重量制限があり、30〜40センチ程度の深さしかないようだ。屋上での栽培の難しさがある。
 この庭園はあまり知られていないようだが、花好きな人が訪れる、憩いの場所になっている。

 1階から6階までの側面は、屋外のスロープ状階段になっている。夏から秋にかけて、シャスターデージー、ノコギリソウ、ベチュニア、アリッサムマツバボタン、キバナキンギョソウカワラナデシコ、フランスギク、ホワイトクローバーなど、いろいろなワイルドフラワーを見ることができる。そして、ドウダンツツジローズマリー、ラベンダーなども咲いている。
 ここでは、いろんな虫や昆虫なども棲んでいる。鳥も訪れたりする。人工的に作られた自然体系である、ビオトープになっている。花が咲く季節になると、近所の保育園や幼稚園の小さな園児たちが訪れて、格好の散歩場所や遊び場所になっている。
 ビルの環八道路に面した外壁は、ムベ(つる植物)のグリーンカーテンが設置されている。ムベは秋頃にアケビのような実をつける。冬になると、ムベの実が熟して道路に落ちてつぶされてしまう。清掃員にとっては厄介な実ではある。

 草花の植え付けや除草などの作業は、月に1回、ボランティアの人たちの手で行われている。毎日行われる広い庭園の水まき作業は、私たち清掃員の仕事だ。夏場は、午前午後、1日2回の水まき作業がある。夏の炎天下での水まきは、熱中症で倒れるスッタッフが出るほどの過酷な作業だ。冬の季節には水を撒くと水が凍ってしまう。水の量や場所に注意が必要になる。

スーサンの清掃記03<清のはなし>

 [清]:音は靑(せい)靑は丹を材料として作られる青色である。その色調は清らかなもの、静かなものを感じさせるもので、水が澄むことから水が澄むことから「きよらか、きよめる、あきらか」の意味に用いられる。

 清掃員の毎日の仕事は、社員さんや職員さんが出勤の時間までに掃除を終了しなければならない。朝の3時間ほどは忙しい仕事になる。私の担当は児童館だ。体育室、図書室、幼児室、集会室、図工室、事務室、などの清掃をしている。

 まず、部屋を解錠してゴミの回収。30リットル、45リットル、70リットルなどのゴミ袋につめてゴミの分別作業。
 床面のバキューム掃除機がけ。掃除機の吸込みダクトはふつう前後に動かしながらゴミを吸取っていく。さらにスピードアップするために前後と同時に左右に振りながら吸取っていく。バキューム掃除機がけは、かなりのスピードで吸込みダクトを振るので手首を痛めやすい。吸込みダクトを持つ左手は順手で持ったり逆手に持ち替えたりして、怪我予防のために工夫しながら掃除機がけをしている。

 その後、フローリングの床は、大型のフロアーモップやダスタークロスで細かいチリを拭き取っていく。土足で汚れの激しいデッキフロアーなどは、少しぬれたモップで拭き掃除。部屋の掃除の後は、酸性トイレ用洗剤や、クレンザーなどで男女便器の清掃。洗面台と鏡、床の清掃。そしてタオルの交換、手洗い用洗剤、ロールペーパーの補充などをする。最後に、使用したモップ、タオル、ダスタークロス、ゴム手袋などの洗濯乾燥をする。

 その他の午前中の作業は、屋上庭園の水まき作業。階段をハンディークリーナーで掃除。階段手すり拭き、などがある。午後の作業は各階のお弁当などのゴミの回収、給湯室の生ゴミの回収と清掃、トイレ洗面台清掃、ロールペーパーの補充など。

 こうして振り返ってみると、かなり忙しい仕事だと思われるだろう。しかし、実際にはたいてい70歳以上のスタッフが仕事をこなしている。少し慣れれば、体力的にはそんなにきつい仕事ではない。しかも待ち時間が多い仕事でもある。
 清掃の目的は床面やトイレなどの設備をきれいに保つこと。ところが、設備は時が経てば経年変化による劣化はしかたがない。限られた時間内ですべてを完璧に清掃することは不可能だ。ゴミが落ちていないことはもちろんだが、汚れが目立つところを重点的に清掃することで、汚れを平均化することが最善の仕事ではなないだろうか。

スーサンの清掃記02<鍵のはなし>

 [鍵]:旁は「建」、鼎:かなえ(祭器として使用された青銅器)の耳の輪の形。また、車輪の脱輪防止のための「くさび」のこと。/楗:かんのき(閂、かんぬきのこと。門の戸を閉める横木を縦にしてとざすもの)と通じて金具の「かぎ」の意味に用いられる。

 近年は、オフィスビルや官公庁などの建物はたいてい警備会社にセキュリティー警備を依頼し、不審者の侵入、火災などの煙の感知、排水の溢れの感知など、異常事態への対応をしている。そして、ビル全体を警備する警備員と建物設備の管理作業員、清掃を担当してる作業員などが日々建物の保守管理をしている。
 清掃員は朝、出勤して、まずカードキーで各階のセキュリティーのロック解除をすることから仕事が始まる。そして、各部屋のカギを開けてから清掃に取りかかる。仕事が終了したら各部屋を施錠して、再度セキュリティーをロックするのが一連の流れになっている。したがって、仕事の前にカードキーやロックキーの管理が大切になっている。

 錠前とカギにはいろんなタイプのものがある。一般的なシリンダー錠、ICコードが書き込まれたカードキー方式、錠前にボタンがありパスワードを押して解錠する方式、最近では指紋認証で解錠するカギも登場しているようだ。しかし、問題もいろいろあるようだ。指紋はあちこちに残るかもしれない。指紋を盗まれる可能性はないのだろうか?街の銀行やネット銀行ではIDやパスワードが無いと現金はおろせないし、ネットショップでも買い物はできない。トラブル防止のため、それぞれパスワードを変えることが推奨されている。しかし、たくさんのパスワードは覚えきれない。最近はパスワードを管理するソフトウェアーに頼らなければならず、かえって不便な時代になっている。

 私の担当している建物は、各階ですべての部屋を解錠できるマスターキーを使用している。もしカギを紛失したとすると、その階すべての部屋のカギを交換しなければならない。その費用は数十万円になってしまい損害は大変なことになる。私の職場では、アナログな方法だが、カギを持ち出したときには管理ノートにチェックを入れておき、カギを戻したら返却チェックを入れて管理している。もっと厳格に管理している現場もあると思う。返却忘れがないよう、しっかりとしたシステムを準備しておくことが重要だ。
 カギは、落とすことのないように、しっかりとしたポケットの同じ場所に入れておく、キーホルダーなどを使って作業服に取り付けておく、などの安全策を工夫した方が良いだろう。